肥満症、そして肥満に関連する疾患や症状を把握して正しく治療しよう
肥満症は疾患(病気)です。肥満症は肥満とは異なり、肥満に伴う疾患によって健康へのリスクが既に生じている状態です。では、肥満症ではどのような症状や健康リスクが起こるのでしょうか。ここでは、肥満症の原因や治療法も含めて解説します。
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昨今、肥満がもたらすさまざまな健康障害に関する研究が進んでいます。肥満は体格指数 (BMI) 25以上の状態と定義されています。肥満であり、かつ肥満に関連する健康障害がある状態は疾患として「肥満症」と呼ばれ、「肥満」とは区別されている一方で、肥満や肥満症の人に対するスティグマと呼ばれる差別・偏見が少なくないことが世界的な課題となっています。一人ひとりが肥満症への理解を深めることは、患者さんの健やかな心と体、そして健全な社会の実現につながります。3月4日の「世界肥満デー」に際し、日本肥満学会の理事長であり、肥満症専門医として治療に携わる横手 幸太郎 医師、メンタルヘルスの観点から肥満症患者の治療にあたる林 果林 医師に話を伺いました。
横手 日本肥満学会では「肥満」について「体の脂肪組織に脂肪が過剰に蓄積した状態で、体格指数 (BMI:Body Mass Index) が25以上」と定義しています。対して「肥満症」は「『肥満』 に起因する、あるいは関連する健康障害を合併している、または合併すると予測される状態」を指します。二つは区別して定義されており、「肥満症」は減量すればおおむね改善が期待されるものです。
林 その違いは、なかなか知られていない上に、肥満そのものは増える傾向にありますね。
横手 成人における肥満者の割合は徐々に増加しており、男性では3人に1人が肥満に該当し、また40~60歳代の中年期以降の割合が多くなっています ¹。男女ともに体の変化として中年期からは留意したいところですが、昨今は小児肥満も問題となっています。コロナ禍による運動不足や食べ過ぎなどの生活の変容もあり、注意が必要です。
林 体を動かす機会が少ない生活は影響していると思います。肥満は日々の暮らしと密接に関わっていて、車移動が多いかどうかといった地域差も生じていると感じます。
横手 幸太郎 (よこて・こうたろう)/千葉大学大学院医学研究院 内分泌代謝・血液・老年内科学 教授、千葉大学医学部附属病院 病院長、千葉大学 副学長。1988年千葉大学医学部を卒業し、同第二内科に入局。ルードウィック癌研究所(スウェーデン)客員研究員や日本学術振興会特別研究員などを経て2019年から現職。2021年11月より日本肥満学会 理事長。
横手 この病気を知っていただく上では、日本人の肥満症の特徴に目を向けることも大切でしょう。というのも、日本人は健康障害が出るタイミングが早いのです。例えば糖尿病の場合では、欧米人はBMIが30を超えると発症しやすくなるのに対し、日本人は25前後から発症することが多い ²ことが知られています。
林 健康障害の種類も幅広いですね。
横手 主な健康障害に数えられるのは、11種です。加齢などのさまざまな要因で内臓脂肪がたまると、悪さをするホルモンが分泌されて炎症が起こりやすくなります。それが進むと、糖尿病や動脈硬化などを引き起こします。ほかにも、体重が増えればひざに痛みが出る、のどのまわりに脂肪がつけば睡眠時無呼吸症候群になるという具合に、さまざまな健康障害につながっていくのです。
出典:肥満症診療ガイドライン2016「肥満に起因ないし関連し、減量を要する健康障害」をもとに作成
林 果林 (はやし・かりん)/東邦大学 医学部精神神経医学講座講師。1998年富山医科薬科大学医学部を卒業後、東邦大学心身医学講座に入局。2009年同大学医学部佐倉精神科研究室で助教に。15年から現職。日本肥満治療学会評議員・メンタルヘルス・行動医学部会員などを務める。資格は心療内科専門医、精神科専門医、精神科指定医、一般病院連携 (リエゾン) 精神医学専門医ほか。
林 肥満症はメンタルの観点からも、気をつけて見ていく必要があります。特に大きな課題と言われるのが、スティグマの解消です。スティグマとは昔は烙印(らくいん)という意味でつかわれていた言葉ですが、現在は「社会から差別的に扱われること」を指します。肥満や肥満症に関するスティグマは主に、見た目に関するものです。多くの人が「やせた=きれいになった」という表現を見聞きしたことがあるのではないでしょうか。
横手 そうですね、しかも「やせることが大切」というような表現に、やせる必要のない若い女性ほど強く反応しやすいという傾向もみられます。
林 変化の兆しもありますが、スタイルがいいのはやせている状態だという価値観が根強く、今はまだそれが憧れられる時代なのだと思います。
横手 しかし、やせすぎには肥満とは異なるリスクが生じます。若い女性の場合、月経不順や免疫力低下、将来的に骨粗しょう症を患う可能性もあるので注意が必要です。そもそも太っていることが悪いかというと、必ずしもそうではありません。また「ふくよか」「ぽっちゃり」といった日本語は決して悪意ある表現ではないと思います。捉えかたの問題は小さくないでしょうね。食糧が不足していた時代には、太っている人が羨望(せんぼう)されていたわけですし、飽食時代の社会環境の変化が影響しています。
林 社会的なスティグマで言えば、欧米では太っていると「自己管理ができていない」とみなされることがありました。その風潮は日本にも少なからずあると感じます。こうした社会的なスティグマにさらされ続けることで生じるのが、自分を卑下してしまう「自己スティグマ」です。差別によるストレスなどから自信がなくなって、引きこもりぎみになってしまい、活動量が少なくなり、太りやすくなるという悪循環に陥ることもあります。
横手 気にかけたいところですね。我々は生活習慣病などの患者さんを診療して「もう少しやせたほうがいいですね」などと申し上げるわけですが、これは皆さん当然自覚されています。けれど、なかなか結果が伴わない。そんな時に的確なフォローをしないと「自分の意志が弱いのだ」と悩んでしまうことがあるように思います。「本人が悪いから」「だらしないから」などと考えがちですが、根拠のないスティグマが生じないよう、知見を広く共有していきたいものです。医療者ですら、偏見を持ってしまう可能性もありますから。
林 その通りだと思います。アメリカの研究で、医療者にもオベシティ・スティグマ (肥満に関するスティグマ) が存在することを示すデータが発表されました ³。医療者も人間ですから、小さい頃から触れてきたマスメディアの影響で知らぬ間に自分の中に入り込んでいる感覚があるということです。それを感じてしまうことが悪なのではありませんが、そのような感覚のある自己を自覚し、肥満の患者に対しての抵抗感を抑えつつ、肥満になるにも各患者にそれぞれの深い事情があることを理解し、真摯に治療する姿勢が必要です。この結果が示しているのは、その自覚を改めて促すものだと思います。
横手 これはまさに、昨今のLGBTQをはじめとする多様性への配慮にも通じるものですね。
横手 肥満症は本人の努力とは違うところで決まってしまう部分があります。研究が進み、なぜ太ってしまうのかがわかってきました。例えば、肥満の人とそうでない人のDNAをくまなく調べて比較すると、脳の神経である中枢神経の遺伝子の違いが関わっているという報告があります ⁴。また腸内細菌の種類によって太りやすい体質とやせやすい体質に分けられることを示すデータ ⁵もあります。
林 遺伝的なことはよく言われていますね。また、生活環境からは、睡眠が充分取れていないと食欲中枢が混乱して食欲に影響することも、知られています。このように本人の責任とは関係のないところに多くの因子が潜んでいます。加えて、食べ物を口に運ぶことは安心や快楽をもたらすため、実は気づかないうちにうつ状態や不安症状に苦しんでいて、それを緩和するために過度な食行動になっていることもあるので、メンタル分野の治療が入ったほうがいいケースもあります。また食行動は小さいころから学んできている習慣であり、適切な食育が厚生労働省より提言されていますが ⁶、肥満もこのような小さい頃から培われたものも、少なからず影響していることもあります。
横手 肥満症の原因は、実に多様だということがわかりますね。
林 そういった背景も踏まえて、治療はまず患者さんを理解することがスタートなのだと思います。そのような姿勢でそれぞれの患者さんが肥満になった多因子を理解できれば、医療者自身が抱えるオベシティ・スティグマも自然と生じなくなるのではないでしょうか。
例えば、肥満解消には睡眠が大切だからといって深夜に長距離を走るトラックドライバーの方に突然「不規則だから仕事を変えてください」とは言えません。しかし、信頼できる医療者・患者の関係が構築されれば、そのような問題をどのように解決するかも一緒に考えながら身体状況も継続的に診ていくことができます。このようにできる範囲で長期的に治療していただく。それが大切ですね。
横手 肥満症の治療にメンタルからのアプローチで携わられて、患者さんにどのような印象をお持ちですか。
林 全員が同じ傾向の方というわけではないのですが、我々の研究 ⁷と臨床からの印象では、気にしていることを悟られたくない、問題を深刻にとらえたくないという傾向の方が多いように思われます。「太っていても、別にいいんだ」と。そして深刻な合併症も大きな問題としてとらえないように気軽に考えてしまうのです。そのような考え方は、実は問題に対しての強い不安感の裏返しである可能性があります。しかし信頼関係が構築できてくると徐々に、本当は悩んでいる、まずいと思っているということを正直にお話ししてくれるようになります。肥満症治療は、患者さん一人ではコントロールが難しい部分があり、治療にはこのような安心して胸の内を話せるような医療者・患者の関係が大事だと思います。
横手 適切な治療は、患者さんの心をほぐすことからですね。家族や周囲の関わりかたも影響するでしょう。健康診断でBMIや血糖が高かったとか、「まあ来年までに何かすればいいか」と何もせず流してしまいそうなところを、本人以外の方にも気にしていただき、何とか行動につながればと思います。
林 糖尿病、高血圧、高脂血症の初期段階には治療したいと思うほどの自覚症状が出ないことが多いですからね。受診して「やせればいいんだよ」と言われるだけと思ったら、足は遠のいてしまいます。そうやって治療から漏れてしまう患者さんがいるだろうと考えています。「あなたのことが、心配だから」というスタンスの声かけをするだけで、ずいぶん違うはずです。スティグマのことも含め、そんな社会になってほしいと願っています。
横手 思い込みを解くという観点では、受診した患者さんに医療者がやせたほうがいい理由をきちんと説明することも大切ですね。薬が減らせる、健康診断で引っかからなくなる、体も軽くなるなど、メリットを丁寧に伝えるべきでしょう。
横手 肥満症はまだまだ知られていない病気です。BMIが25以上という肥満に加えて、肥満が原因となって健康障害があるという方を見つけ出して、しっかり減量することで健康を得るということにポイントがあります。多くの方にこの肥満と肥満症について正しく理解していただき、患者さんにはしっかり減量をして健康になる方が増えてほしいと思います。
林 自分のせいで体型をコントロールできないから自分は駄目だという風に思って、そのことを考えないようにしていらっしゃる方も多いと思いますが、検診で何か引っかかったら、症状がなくても受診していただきたいです。だるい、つらいというのは、肥満による血液のバランスの悪さから来ている場合もあります。不調を自分だけで抱えず、ぜひ相談に来ていただければと思います。
1.肥満と肥満症は異なる
肥満症はBMI25以上で健康障害を有する
2.肥満と肥満症にはスティグマがある
医療従事者や本人、周りの人もスティグマを取り除く努力が必要
3.肥満症の原因はさまざまな要因がある
本人だけで悩まない
「肥満」は体脂肪が過剰に蓄積した状態を指し、主にBMI25以上で判定されます。一方「肥満症」は、肥満に加えて高血圧や糖尿病、脂質異常症などの健康障害を伴っているか、将来起こるリスクが高く、医学的に減量が必要と診断される病気です。太っていること自体がすぐに病気というわけではなく、健康への悪影響の有無が両者の重要な違いになります。
肥満症診療ガイドライン2022 P8-10
肥満症には遺伝的な要因や体質も関与しますが、それだけで決まるわけではありません。食欲を調節するホルモンや脳の働き、基礎代謝の個人差に加え、睡眠不足やストレス、食環境といった生活環境要因が複雑に重なって発症します。そのため、本人の努力や意志だけでは説明できない場合が多くあります。
Locke AE, et al. Genetic studies of body mass index yield new insights for obesity biology. Nature. 2015;518(7538):197-206
現在の医学では、肥満や肥満症を単なる自己責任と考えることは適切ではないとされています。肥満症はホルモン、脳の食欲調節機能、ストレス、社会環境など多くの要因が関与する慢性疾患です。「自己管理の問題」と捉えてしまうと、適切な治療や支援を受ける機会を逃す可能性があります。
Rubino F, et al. Joint international consensus statement for ending stigma of obesity. Nat Med. 2020;26(4):485-497
自分の健康について、「将来が気になる」、「誰に相談すればいいかわからない」など、お悩みはいろいろありますよね。肥満症ペイシェントジャーニーは、あなたの今の気持ちに沿って、あなたに合った方法を見つける、旅の地図です。
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